昔、有名オイルメーカーのCMで取り上げられ
一躍有名になったドライスタートですが
ドライスタートって何だ?と言う方に
簡単に説明すると
車を乗らずに放置して居る間に
シリンダ等に付着しているオイルが重力により
落ちてしまい、油膜が切れている状態で
(或いは極めて薄くエンジンの保護が出来ない状態)
この時にエンジンを掛けると
普段よりダメージを被るという訳です。
まぁ正直な話、ドライスタートが原因で
不動車になるほど大ダメージを被るという事も
ありませんがTVの影響というのは恐ろしく
本当に大丈夫なのか?と言う内容のメールが
私宛に沢山送られてきます。
某添加剤サイトでは一回のドライスタートが
東京〜大阪間を走行するよりダメージがある。
と書いてあります。
東京〜大阪間を距離にすると約550km程です。
550km走行するより一回のドライスタートの方が
ダメージが大きい・・。距離云々はさておき、
ドライスタートがダメージを与えるという点は間違い有りません。
さて、以下にそのサイトの原文を引用しました。
(ここから引用)
エンジン摩耗の90%はドライスタートと呼ばれる初期摩耗によるものです。
オイルは一晩するとオイルパンにオイルが落ちきって
金属表面の油膜がなくなります。
朝エンジンをかける時は、オイルがエンジンに行き渡る前に
始動させるので鉄同士が触れ合い摩耗します。 (引用ここまで)
これは困りましたねぇ。
ドライスタートが困ったという訳では無くこの記述が困りものです。
まず、東京・大阪間を走るよりダメージが有ると
言う根拠も解りませんが一晩でオイルが落ちきると言うのは
如何な物でしょうか?
結論から言うと数十年前のオイルならまだしも
最近市場に流れているオイルを使用している限り
たった、一晩で油膜が無くなる事はありません。
そんな低品質のオイルなど誰も買いませんし
今の時代にそんなオイルを探す方が難しいでしょう。
高性能とは言わないまでも
普通に使うなら過不足無い程度のオイルが
安価で流通していますが
それでもたった一晩でオイルが落ちきる程
低品質ではありません。
ユーザーの不安を煽り、商品を購入させようと
いう意図は感心出来る物では有りません。
前置きが長くなりましたが解り易く検証しましょう。
一晩経つと油膜が落ちると豪語していますが、その場合
会社から帰ってきて次の日乗る時にはドライスタートになりますね。
(実際サイトにも翌日はドライスタート状態と書いてある)
毎日ドライスタートが起きていると仮定すれば毎日上記の東京〜大阪間
+αkm(実際の走行距離をαとする)走行している事になります。
毎日550km走行する。週休二日で5日間走行、一ヶ月20日車を使用。
20×550km=11000km。年間で132000km+実走距離。
何と、普通に通勤に使うだけで年間13万km以上走行する事になります。
新車で買ったら初回は三年車検だから3年経てば39万6千+実走距離。
参りましたね。新車で買っても車検時には乗り換えですかね?
この不景気な時に羨ましい限りです。経済効果抜群で実に素晴らしい。
しかし次にこの車を買う人は最悪ですね。スクラップ同然です。
距離数を示すメーターの巻き戻しでは無く、
メーターを巻き進めておかないと騙されて買ってしまいますね。
何ともアホらしい話ですが大真面目に『貴方の車は大丈夫ですか?』
と結ぶ訳です。貴方こそ大丈夫ですか?本気ですか?確信犯ですか?
と思わず、疑問文に疑問で答えてしまいそうになります。
質疑に対して質疑で答える。国語のテストだと間違い無く0点ですね。
そのサイトの記載が正しければ、普段仕事に使われる営業車等は
一体どれ程タフなエンジンを積んでいるのか?と言う事になりますね。
それこそ、ドライスタート以前に本当にこのオイルは車両用か?
と言うような低価格のオイルを使用し、更に呆れ果てるような距離数を
乗り回しても平然と日々の業務に使用出来る車ですから
その酷使の度合いは自家用車等とは比較になりません。
更に管理も大雑把なのに、何事も無く業務に使えて当然と言う
概念があるから壊れると困るという厄介な代物です。
どうにも上記サイトの理論では合点出来る説明が出来ませんねぇ。
まず、そのサイトで提示している条件を前提に考える事自体が間違いです。
一日位でオイルは落ちないし何度も何度も書いていますが
そんな問題を抱えた車が何万台と問題を放置したまま
天下の公道を疾走する事はありません。
全てメーカーが製造時に問題に対して然るべき処置を施すから
夜に帰ってきて翌朝出発。と言う当たり前の事が可能なのです。
その然るべき処置として有効な策が以前出てきた
固体潤滑剤を使用する事です。
固体潤滑剤はオイルやグリスが使えない状況で効果を
発揮すると以前の項で説明しました。
ドライスタートがエンジン内で起こるのであれば
何とか油膜が切れないようにオイルに様々な対策を講じるよりも
最初から油膜が切れた状況を想定して対策する方が建設的です。
そこで、油膜の有無に左右されずに性能を発揮する
固体潤滑剤が有益だという事になります。
ただし、固体潤滑剤が有効だからと言って
ユーザーがオイルに固体潤滑剤を投入して云々という方法は
固体潤滑剤をオイルで各部に供給させる事が
不確実な要因を含む為、私はお勧め出来ないと以前も述べましたし
ここで言う然るべき処置というのは
製造段階で焼成皮膜形成等の特殊加工の事を言う訳で
ユーザーが云々出来る領域ではありませんし
そもそもユーザーが処置云々と考える必要もありません。
さて、賢明な読者の方ならば
ドライスタートが悪いのは知ってるけど、
どの位放置しておけば起こるんだ?
と言うのが疑問だと思います。
どの位・・。自分で提起しておいて大変回答に困るのですが
一月間は放置しても大丈夫。と言う方が居たり
2週間位でドライスタートになる。と言う方が居たり色々です。
当然使用しているオイルの質にも因ります。
エステル系オイルは極性を持ち分子自体に金属と結合する効果があり
油膜を保持する力が高く耐ドライスタートに特化した性能と良く言われますが
どの位まで上記の性能を保持出来るんだ?
と言われれば明確な答えは出せるはずもありません。
変質しない限り持つ筈ですが不変の物など世の中にありませんし
エンジンオイルは様々な要因に晒され
(熱・空気に依る酸化・強酸等の燃焼生成物・燃料混入等)
更に個人の使用環境によって左右される以上
結局全ての数値は目安でしかないのが正直な処なのです。
ここで私が何日間は大丈夫ですよ。等と適当な事を言うと
私が三流詐欺師扱いされるので明言は控えたい処なのですが
私宛に送られるメールでもこのドライスタートに関する質問が非常に多いのです。
資料を漁ったのですがオイルの質と環境によってガラリと変わる為、
これだけは持つ。と確信出来る資料が見つかりませんでした。
オイルの全体的な動向としてドライスタートに対する対策は
当然講じられておりその性能も向上しているという事は記載されていますが
何時まで持つか?と言う質疑自体無い事から、明確な答えは
ケースバイケースと言う事になるようです。
この辺が潤滑という分野の難しいところであり
何時まで持つんだ?と聞かれて、さぁ?解りませんねぇ。
と答えて、アホかお前は?と罵られるか
○と言う状況であると仮定して、○○してその結果
○という因果によって○という結末に達すると思われます。
と答えて、良く解らんけど凄いなぁ。と感心されるのが
賢人と凡人の違いかもしれません。
内容はどちらも同じですが何とも締まりのない
腐抜けた内容になってしまい、
結局結論は出ない情けない終わりになりました。
ハッキリ言うとドライスタートに関してはユーザーが
云々する程気にする事は無く、それを気にした処で
気休め的な策はありますが
ユーザーが根本的に有効な手段を施す事は
なかなか難しいと思います。
市販製品の中にはドライスタート対策に有効。と
銘打っておきながら添加剤自体に有害な成分が
含有されている物も有り、確かに対摩耗性は有るが
その成分自体に強い腐食性が有るという
笑えない商品もありますので御注意下さい。
正に「木を見て森を見ず」と言う事でしょうね。