前号ではエステルについて筆を運んでいたのですが
無茶苦茶に脱線して終わってしまいましたので
今回はしっかりと書かせて頂きます。
さて、エステルオイルですが某エンジンオイル販売サイトで
エステルオイルはパッキン等のシール材を膨張させてオイル漏れを
起こす原因になる。だからすぐに使うのを止めろ。
化学合成油が高性能なんて嘘っぱちだ!
安全な鉱物油にした方が良いですよ。等と吹聴しているサイトがあります。
件のサイトを拝見していくと パラフィンオイルが最高ですよ。
と書いてあります。
内容の是非はさておき、このサイトを見て、
何故此処まで化学合成油を目の敵にするのか?と思いました。
まぁ、結局は販売しているオイルを売る為の策略に過ぎないのですが
其処まで化学合成油を叩くのならば、丁度、化学合成油の話をしているので
化学合成油は極めて優れていると言う事を書いて見ようと思います。
まず、化学合成油は極めて高性能で在る事は疑う余地が無いと言えるでしょう。
相手に物言いを付けるようですが事実ですから仕方在りません。
何故ならば、件のサイトにも記載されていますが分子設計の組み合わせ次第で
様々な要求に応える事が出来る訳です。この点は前号でも書きましたね。
一般的に完全合成油としてエステルを使用しているエンジンオイルは
PAO(ポリアルファオレフィン)と言う物を併用しています。
PAOは鉱物油と科学的構造が類似していますがPAOは鉱物油と
比べて優れた特性を沢山持つ優れた素材です。
件のサイトのベタ誉めパラフィン油を引き合いに出すようで誠に恐縮ですが
鉱物油の代表としてパラフィン系鉱油と比べてみると下記の点で
優れた特性を有しています。
1 成分自体に不純物の含有が少なく(極めて純度が高い精製が可能)
スラッジが生成しにくく蒸発減量が少ない。
2 硫黄・窒素等の不純物を含まない為、添加剤の添加特性に優れる。
(少量の添加剤で効果を発揮する事が可能)
3 不純物を含まず芳香族成分を全く含有しない完全飽和炭化水素
であるから 人体・環境に及ぼす影響が少ない。
4 低粘度から高粘度まで広範囲の粘度グレードをカバーできる
5 粘度指数が高く温度変化に対して粘度変化が少ない。
低温条件下での急激な粘度上昇・高温時での急激な粘度下降が少なく
両条件下でも良好な油膜を形成できる。
6 引火点が高く、引火・火災等の危険性が低い
7 流動点が低く流動点降下剤等の添加剤使用が軽減できる。
勿論、欠点もあります。
1 化学構造が単純な為エラストマーの選択に注意を要する。
(パッキンを縮める原因がこれ。選択を誤ると起こる)
2 無極性の完全飽和炭化水素の為、添加剤の溶解性に乏しく
エステル等の極性の高い素材との組み合わせが必要
(単体では使い難い)
3 鉱物油と比較して値段が高い
用語解説 エラストマー
パッキンの材料によく使用される言葉で、ゴム状の弾性体の事。
ゴムもエラストマーの一種であり、プラスチック、つまり樹脂であっても、
ゴムのような弾性体であればエラストマーになります。
1の問題は主に化学合成油が市場に浸透する前に発売された
旧車や一部の外車で起こる事が確認されています。
ただ、オイルメーカーも既に対策を講じており
パッキンを膨張させる効果を持つ成分を併用する事により
1の問題を相殺する事に成功しております。
2の問題は文中にあるようにエステル等と併用する事により
その問題解決を図る事が可能となっております。
勿論、その対策分だけ製造コストが上がり結果的に3の問題がより顕著に
現れる形になるという訳です。
簡単に要約すると以下のような比較になります
PAOと鉱物油との比較 |
||
◎非常に優れている ○優れている △劣る |
||
PAO |
鉱物油 |
|
粘度範囲 | ◎ |
○ |
粘度指数 | ◎ |
○ |
引火点 | ◎ |
○ |
流動点 | ◎ |
△ |
スラッジ生成 | ◎ |
△ |
添加剤の効果 | ◎ |
○ |
人体・環境への影響 | ◎ |
○ |
エストラマーへの影響 | △ |
◎ |
添加剤との溶解性 | △ |
◎ |
価格 | △ |
◎ |
PAOは以上のように優れた特性を持ち、広範囲に使用されている素材です。
鉱物油との化学構造や特性が類似している事もあり鉱物油と同タイプの
添加剤が使用可能で鉱物油系潤滑油の品質向上にも使用されます。
(鉱物油に混合する事で性能を向上させる事が出来る)
ただ、価格面の兼ね合いもあり潤滑油全体出の使用比率は高いとは言えず
今後の使用量増加に伴うコストパフォーマンスの上昇に期待する処です。
次号でも引き続きエステルについてお話させて頂きます。